にしおかすみこ著「ポンコツ一家」どんなにしんどい状況でもクスリと笑える一発屋芸人の介護エッセイ

「ブームは終わる。それでも、人生は続く。」

山田ルイ53世の著書「一発屋芸人列伝」の帯の言葉です。

2000年代「エンタの神様」で女王様キャラでブレイクした、にしおかすみこさんもまた紛うことなき一発屋芸人であり、活躍が落ち着いた現在ももちろん彼女の人生は続いています。

そして彼女は今、また違う形で脚光を浴びつつあります。「家族の介護」というリアルを私たちに伝えてくれるという形で。

独身が一人で家族の介護を担うということ。いつかは来ると分かっていても、ついつい考えることを先送りにしてしまっている独身も多いのではないでしょうか?

にしおかすみこ著「ポンコツ一家」は正直内容が重い箇所もありますが、文章は軽めなので読みやすく、考えるきっかけになる本としておすすめです。

にしおかすみこ著「ポンコツ一家」とは

「ポンコツ一家」は今年1月に発売されたタレント・にしおかすみこさんの、家族の介護について書いたエッセイで、Web連載をまとめたものと書き下ろし5本が収録されています。

連載は2021年9月から「FRaU web」にてスタートしましたが、「壮絶なのに笑って泣ける!」と第1回の記事が1200万PVを記録。

書籍は発売されて即重版が決定と、やはり高齢者社会の中で非常に注目度が高いことがうかがえます。

にしおかすみことは
1974年生まれ。千葉県出身、青山学院卒。 「エンタの神様」出演時の女王様キャラでブレイク。落語家にも挑戦しており、現在はリポーターや自身の介護体験を語る仕事も増えています。 趣味のマラソンでは大会で入賞もしていて、さらにベジタブルカービングでも話題になっているようです。

独身女性がワンオペで家族を介護するというリアル

正直言うとこの本を読む前、ちょっと思ってたんですよ。いい大学出てるからそこそこ恵まれている家庭だろうし、一発屋芸人といっても芸能人なんだから一般人よりは裕福だろう。

そんな人が書いた介護のエッセイなんて、一般人の私が読んでも参考にならないだろうなと。でも本が届いて手に取ったとたん、それが誤解だと分かったんです。

実は衝撃的な家族構成だったにしおかすみこ

手に取った本の帯にはこう書いてありました。

「家族紹介。うちは、
母、80歳、認知症。
姉、47歳、ダウン症。
父、81歳、酔っ払い。

ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。全員ポンコツである。」

むしろ一般人の私より悲惨だった…なんか舐めててすみませんでした!

この本はにしおかさんが久しぶりに実家に戻るところから始まります。

実家に入ると家の中は荒れ放題、しかも母親の認知症が発覚し、にしおかさんは実家で介護をすることになってしまうのです。

父親は頼りにならない。姉はとにかくお風呂に入らない。母親はいちばん手がかかる。この3人をにしおかさん1人で介護するという、かなり絶望的な状況なのです。

特に母親に関しては詳しく書かれていて、私は自分が認知症に関してかなり誤った認識をしていたことに気づきました。

私は今まで認知症というのは、ずっといわゆるボケている状態だと思っていたけれど、実際は意識がはっきりとしているときもあるのです。

何もかもが分からなくなるわけではなくて、記憶が取り出せたり取り出せなかったり、まだらになっているようですね。

お母さんは初期のアルツハイマー型認知症らしいのですが、まだ徘徊とかはないものの、言っていることがかなり支離滅裂であったり、初期でこんなに大変なのかと私まで落ち込みました。

家族や介護って生々しい

介護というのは世話をすることそのものより、親が理性のきかない子供のようになっていく反面、肉体は衰えていくのを目の当たりにするのが辛いのかもしれません。

いや、意志を持って人を傷つけようとしてくるぶん、子供よりやっかいです。まともに会話ができないのに、むき出しの感情や言葉をぶつけてくるのです。

にしおかさんがこのままではみんな共倒れになってしまうから、お姉さんを施設に預けようという当然の提案をしただけで、こんな理不尽なことを言われてしまいます。

母が言う。「鬼が!うちの大事な子を何で施設なんだ!悪魔が!東京行ったらこんな冷たい人間になったんか。人じゃないよ!鬼!鬼!」

父も言った。「すみ、そんなこと言うもんじゃない、パパが全部面倒見るから」

にしおかすみこ「ポンコツ一家」

にしおかさんは家を飛び出しました。当然です。そりゃ爆発してしまいますよ。でも結局戻ってきてしまうんです。

にしおかさんだって心の中で毒は吐きます。激しい口論になることだってある。

生まれてくる家なんてもう完全に運であって、血がつながっているというだけで簡単に投げ出すこともできない。

でもにしおかさんは決して恨み言は言わないんですよね。こんな家に生まれてこなければよかったとか、もう介護やめたいとか。

本当にこの本全体を通してにしおかさんの真面目な人柄が伝わってくるんですけど、そんな人でもやっぱり介護しててムカついちゃうことだってあるし、時には投げ出したくなることだってあります。

どんなにいい人でも介護を苦痛に思うときがあるのは当たり前であって、どんなに仲のいい家族でも介護というのは生々しいものなんです。

もし介護をしていて 「こんなことを思ってしまう自分はダメなのかも」という罪悪感を持っている人がいるのなら、ぜひこの本を読んで「自分だけじゃないんだ」と心が軽くなってほしいと思います。

どんなときでもユーモアを忘れないにしおかさんの強さ

私が将来介護をする可能性がある人や現在介護をしている人に、この本をおすすめするのは共感できたり、またメンタルの保ち方とかも参考になるのではないかと思うからです。

にしおかさんの文章には、クスリと笑えるところがとてもあります。日常を面白く描写していたり、ツッコミが入ったり。

母が冷蔵庫の扉を開け首を突っ込んでいた。家電にババアが飲みこまれている。

にしおかすみこ「ポンコツ一家」

これは日常の一部ですが、わりと重ための状況でもこんな感じなんですよ。絶望的な状況でも絶望しきっていないんですよね。

ツッコミを入れていてもそこから温かな視線を感じるし、毒舌であっても突き放す感じはしない。

正直私が介護することになっても、こんなに優しくも強くもなれる自信はありませんが、こんなふうに考えられるようになりたいという目標にはなりました。

にしおかさんが家族のことを書いた理由

この本を読んでいて、にしおかさんがとても真面目でユーモアのある素敵な女性ということは分かったのですが、少々心配にもまりました。

この人、全部一人で背負い込みすぎないかなと。もちろん医者や地域包括支援センターとかには相談しているんですけどね。

たまに幼少のころの描写とかもあるんですけど、いわゆるきょうだい児ゆえの苦悩も垣間見えて、色々我慢してきた人なのかなあと思ってしまいました。

だから介護でも自分の気持ちを押さえ込んで無理しそうだなと。でもこの部分を読んで安心しました。

生活費を稼ぎたいんだ、この先介護するにもパソコンひとつで家で仕事ができたらいいだろう、私も好きなことがそたい、書くことが好きなんだ、読んでくれる人みんなに笑って欲しいんだ、矛盾と不安だらけだけど家族は私が守る、(以下略)

にしおかすみこ「ポンコツ一家」

にしおかさんは書くことが好きで、書くことが彼女の救いになっていたんですね。もしかしたら周りに自分の状況を知ってもらうことで、助けを求めている部分もあったかもしれません。

とにかく私は、彼女がただ家族の犠牲になっているわけではなくて、ちゃんと自分の好きなことをして、周りに助けを求めているのに安堵したのです。

「全部はやらない。全部はできない。」という言葉が出てくるんですけど、真面目で「自分が頑張らなきゃ!」と思いがちな人にこそ、この言葉を送りたいですね。

にしおかさんの近況を調べてみると、ショートカットがとても似合っているいい笑顔で、なにやら昔よりいい感じになっているではありませんか。

昔の女王様キャラのときより自然体でよっぽどいい!女王様キャラのときはちょっと無理してたんだろうな。

第一線で芸人として売れてるときより、介護している今のほうが輝いているのって本当に珍しいことなんですけども。

ゆくゆくは介護をしなければいけない同じ独身女性として、にしおかさんの動向はこれからも追っていきますけど、これまで通り面白く介護を語っていってほしいですね。

介護って人に頼ってもいいんだ、グチを言ってストレス発散してもいいんだという空気にならないと、これからの社会はどんどんギスギスしていきますから。

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