藤谷千明著「オタク女子が、4人で暮らしてみたら。」オタクが集まれば淡々とした日常の中にもイベントが発生する

一人は寂しい、でも結婚したいわけではない。

私は一人が大好きですが、たまにそう思うこともありますし、実際そういう人も多いのではないでしょうか。

一人の時間も趣味の時間もキープできて、無理のない範囲で誰かと時間を共有することもできる。

そんな生活ができたら最高だとは思いませんか?

そしてその最高の生活を実現させている女性たちがいます。

ノリでルームシェアを始めてしまった、そんな女性たちのゆるゆる共同生活を描いたエッセイをご紹介します。

藤谷千明著「オタク女子が、4人で暮らしてみたら。」とは

藤谷千明さんが2020年に刊行したエッセイで、タイトルのとおり女性4人がルームシェアを始めたきっかけや、実現に至るまでの道のり、共同生活での工夫や楽しさが書かれた内容となっています。

藤谷千明とは
1981年生まれ。工業高校を卒業後、自衛隊に入隊し、様々な職を経て現在はフリーのライターをやっています。 4半世紀以上ヴィジュアル系のファンであり、主にサブカル系の文章を書いています。本書を読む限り、ライブレポートやインタビューなどの取材が多いみたいですね。

また「マツコの知らない世界」にもご出演されていて、私が彼女を知ったのもこの番組です。

とてもお綺麗で若く見えたので、同年代だと知ってびっくりしました。

藤谷さんは同棲していたパートナーと別れ、一人暮らしを始めたものの向いておらず、精神的に不安定になってしまいます。

そこで思いついたのがオタク友達とルームシェアをすることだったのです。

著者がルームシェアを始めたきっかけとその実態

アラフォー女性でルームシェア。しかも4人で。一昔前だったら眉をひそめられたかもしれません。

しかしアラフォー独身もオタクも珍しくなくなった今、むしろ「自分もやってみたい」という相談を受けることもあるそう。

私もやってみたいと思った一人であり、それは私がオタク気質だからだというのもあります。

この本で分かったのは自分を理解してくれる人ならば、血がつながっていなくても、恋愛関係でなくても、うまいこと一緒に暮らしていけるということです。

オタクは面白いことが大好き

そもそもこのルームシェアが実現したのは、全員がオタクだからではないのでは?と私は思っています。

私も友人と老後に一緒に住もうよという話はしたことがありますが、それは遠い遠い先の話。

友人たちはただいま子育ての真っ最中です。

実際にアラフォーで友人とルームシェアを実現している人が少ないのは、こうした現実からでしょう。

しかし藤谷さんは思いつきで友人の丸山さんに「オタクルームシェアしない?」とLINEしたところ、「面白いほうに5000点」とあっさり決まりまってしまいます。

オタクはノリがいい!

その後オタク友達のLINEグループで、さらにメンバーを募集をしたところ、こちらもあっさり決まってしまいます。

紆余曲折があり、メンバーチェンジがあったものの、無事に4人で同居することになりました。

オタクにとって、「面白い」はすべて。

面白いことをするために、オタクは経済的にも精神的にも自立していて、結婚願望もみなさんそれほど無さそうです。

それどころか「誰かが突然恋に落ちて、ここを出ていくことになってもそれはそれで面白い」とすべてを面白い方向へ持っていこうとするのも、オタクの性。

ルームシェアするにあたって、最大の難関は物件を見つけること、契約まで持ち込むことだったのですが、ここでもオタクの能力がいかんなく発揮されます。

東京でもルームシェア可の物件というのは非常に少なく、さらに4人の希望を叶えるとなるとかなり絞られてきます。

ここでオタクの情報収集能力が生かされてくるのです!

なかなか希望に合う物件は少ないのですが、少しずつ情報を集め、それをまとめていきます。

そしてついに理想の物件を発見。

藤谷さんのお仕事がフリーランスだったりと、障害はいくつかありましたが、交渉につぐ交渉の末、ついに契約に至るのです。

ルームシェアは推し活にもメリットがたくさん

まず家賃を4人で折半しているため、当然のことながら生活費が浮きます。

藤谷さんは家賃が8万5000円から6万円となり、光熱費なども折半しているので、1ヶ月の生活費は約半減。(ただこれは2019年の時点なので、今はもう少し生活費は上がっているかもしれません)

あと私もそうなんですが、オタクはとにかく物が多い!

藤谷さんも「そもそもライブ遠征などで家を空ける時間が多いのに、オタクグッズ置き場と化した部屋にバカ高い家賃を払うのは無駄な気すらする」と書いています。

物が多いオタクが都会で一人暮らしをするとなると、せまい部屋に物が溢れた空間で生活しなくてはなりません。

その点ルームシェアをすれば、一人暮らしをするよりは広い家に住むことができ、オタク同士ならばお互いに物が多くてもお互いさまです。

捨てても捨てても本が減らない私からすれば、倉庫部屋の共有の本棚というのは非常にうらやましい。

また現場に行くことも多いので、イベントごとに家を空けるときにはアプリでお互いのスケジュールを確認。

大好きなアニメの続編が作られるときには共に肉を食べ、同居人の推しの行く末を皆で見守り、推しのバンドが解散すれば思い出を語りあい、共用費で「鬼滅の刃」全巻を購入する。

生活費が浮くことでさらに推し活にお金をつぎこむことができるし、物欲にも、現場で家を空けることにも理解のある相手と、お互いの推し活を尊重しあったり共有することもできてしまう。

オタクルームシェアをすることで、家の中でもオタク特有のイベントを楽しむこともでき、さらに豊かな推し活ライフを楽しむことができるのです。

ハード面でもソフト面でも支え合う

いくら気の合う人同士でも、それぞれ生活ができあがっているアラフォー女性が生活を共にするわけですから、新たにルールをすりあわせる必要があります。

最初は食材の購入や掃除場所がかぶってしまったことがあったので、それぞれをリスト化し、食材の在庫状況や掃除のルーティーンを共有しています。

とはいっても、細部に至るまでがっつりルールが決められているわけではなく、フリーランス組と会社員組でそれぞれがその時できることをして、うまく回っているようです。

お互いの仕事が繁忙期のときは他の3人中心で家事をしたり、体調が悪いときには食料を買って部屋の前に置いてくれていたりと、まさに持ちつ持たれつ。

こういった生活面での助け合いだけではなく、やはり家に人の気配があるということは精神的にもかなり支えになるようで、特にコロナが始まったときのことをこう書かれています。

これが1人暮らしだったら、ひとりでSNSのネガティブなニュースを見て、経済的不安や人恋しさでもっとメンタルが押しつぶされたりしていそう。私の性格上、そうなっていると思う。ルームシェアしててよかったー!

藤谷千明「オタク女子が、4人で暮らしてみたら。」

確かにコロナ禍が始まったばかりのころの、お互いがお互いを監視しあう世の中の空気は、非常に息苦しいものでした。

しかも藤谷さんはフリーランスで在宅での仕事も多く、孤独を感じなくてすんだのは本当に大きかったのだと思います。

コロナ禍の真っ只中、もしかしたらそれぞれに思うところもあったのかもしれません。

それでもやはり今でも同居を続けているのは、コロナ禍を経てさらに絆が深まったということなんでしょう。

ルームシェアに向いている人とは

では結局ルームシェアに向いている人ってどんな人なんでしょう。

藤谷さんは他人同士で生活するコツについて、「衛生観念と経済観念と貞操観念のすり合わせができたら、なんとかなるのでは」と答えています。

私がこの本を読んだ感想としては、「ある程度の距離感が守れる人」なのかなあと思いました。

この本を読んで始めて知ったんですけど、オタクの人って普段の会話でも敬語で話しているみたいで、それによって距離感が保たれて逆にいいんでしょうね。

やっぱ「親しき仲にも礼儀あり」って大事だと思うし、他人だからこそお互いにそんなに期待することもなく、最低限のことさえ守られていれば「こうしてほしいのに」というストレスもなく過ごせるのではないか。

夫婦でも「夫に何も期待しないようにしたら楽になった」という話も聞きますし。

あと「やってもらって当たり前」ではないから、お互いに感謝の気持ちが生まれるし、近すぎない関係性だからこそほどよい緊張感も保たれるのだと思う。

私はこの箇所にルームシェアのよさが集約されていると感じました。

思うに、我々は生活は共有しているが、人生は共有していないことが良いほうに働いている気がする。家族愛や恋愛感情などの関係性による、クソデカ感情が挟まらないので、そこに気楽さや快適さを感じているのだろう。要するに「家族だからこうしなきゃ!」といった、思い込みの重力からは解放されているように感じている。

藤谷千明「オタク女子が、4人で暮らしてみたら。」

しかし藤谷さんはこの暮らしをずっと続けていきたいと思いつつも、一生この生活が続くわけでもないということも分かっています。

いつか自分が老いたときに介護されなければいけなくなるかもしれません。

そのときに誰かの人生を犠牲にするのではなく、行政や民間のサービスを受けれるよう、きちんと貯蓄をしているようです。

一緒に住んでいてもそれぞれが別の人生を歩んでいることを理解できて、それは寂しいことではなく、自分の人生を自分で歩いていけることなんだと思える人がルームシェアに向いていると私は思います。

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